第1章 序説: 果実の魅力的な栽培


第1章 序説 Introduction 


ఔ 果実の魅力的な栽培 GROWING FRUIT ATTRACTIVELY ఔ 



 現代の科学技術の助けを借りれば、果物を一年を通じて家庭で育てることも今や可能になっています。アマチュアのガーデナーは生産農場のように冷蔵施設にリンゴやナシを貯蔵することはできませんが、春まで保存できるような方法を借用することはできます。そして、もっとも役に立つ現代のガーデニングのツールである冷凍保存法を利用し、過去のいくつかの教訓を生かせば、長期間続くビタミンC不足の言い訳はもうできません。

 商業的果実栽培での研究における技術革新がプロの世界ではもちろん、アマチュアにも役立つようになっています。私たちは果実栽培農家からたくさんのことを学ぶことができますが、賢いガーデナーはその中からよく選んで利用します。たくさんの品種が主に商業的な理由で開発されていますが、ガーデナーには好まれません。多くの場合、古い品種のほうがずっと良いのです。

 「ジェームズ・グリーブ」はとても優れた庭園用の品種のよい例で、栽培農場では避けられるため思ったようには人気がありません。この品種は1890年にエジンバラのディクソン商会により紹介され、その名前はこの品種を育てた従業員の名前からつけられました。すばらしい歯ざわり、ジューシーな果肉、そしてやや酸味のある素晴らしい香りが特徴です。そしてたくさんの花をつけるので、ほかの品種の花粉木としても優れています。しかしひとつの欠点のために、商品としての栽培では主役となりえないのです。その欠点とは、この品種の果実は傷みやすく、果樹園から市場へと運ばれる間に食べられなくなってしまうのです。木からもいですぐに食べると、そのおいしさに並ぶ品種はありません。だから、ガーデナーには是非栽培すべき品種です。

 「アシュミード・カーネル」はお店ではほとんど見ることのない素晴らしい香りをもつリンゴのもう一つの品種です。残念ながらくすんだあずき色で見た目がよくないために、今ではあまり人気がありません。1700年頃に作られた品種で、今でもいくつかの果樹専門業者で入手は可能です。よい香りをさがしているのなら、現代の品種でこれに匹敵するものはありません。


果樹の誘引 Fruit training

 過去からわたしたちが学べることはおそらく果樹の誘引と剪定についてでしょう。わたしたちの庭で居場所を獲得するためには、たとえ植え付ける目的が食べ物をつくることであっても姿も美しい必要があるという基本的なルールを思い出してください。そして、このルールは、目的は違うことが多かったにしても、歴史を通じて庭を支配するルールだったのです。



 例えば修道士たちは彼らの修道院が所有する土地で自給自足できる食料を育てなければなりませんでした。彼らはまた祈りや瞑想に適した平和で美しい雰囲気を作りたいと思っていました。美は効率よりも大切であり、わたしたちの庭でもそうあるべきです。

 果樹での彼らの解決策は、その後の時代もずっと続いていく剪定や誘引への長い熱中への始まりとなりました。果樹のアーチがおそらくその最初のものです。

 修道院の回廊は果樹の歩道からのインスピレーションだったのではないかと思うのです。ひとがより崇高な思想にふけるのには、両側に木が植えてある道よりも、静かで奥まった日陰になった小道のほうが適しているでしょう。小道の中央の上のあたりまで木を曲げて日陰を作るのはほんの少しの論理的なステップで、ご褒美としての食べ物を提供する果樹を使うのは賢明です。

 左右対称な曲線にするために木々は成長するときには木製の型枠に結びつけられ、両側からの枝が中央で出会ったらきっと頂上部分で接木をされたでしょう。中世のガーデナーは熱心な接木家だったのです。

 その後、果樹のアーチは装飾的な植物でも行われるようになり、ヨーロッパの大きな庭園で広く採用されるようになりました。若い女性が肌を小麦色に焼くのは現代だけの流行です。今は健康的で魅力的と考えられる肌の色も、以前は大変粗野でレディーのすることではありませんでした。だから良い家柄のレディーが明らかに庶民のように日焼けしてはいけないので、日の当たるところを歩くのは賢いことではなかったのです。木陰の小道はだから理想的な解答でした。

 現代では日光に肌をさらすことにそれほど敏感ではないかもしれませんが(ただ、さらにオゾン層の破壊が起これば何が起こるか誰も答えられませんけど)、果樹のアーチは昔と同じように今でもリンゴや洋ナシを魅力的に育てる方法です(第8章を参照)。

 果樹のアーチから、すべての種類の芸術的な形が生まれました。理由があってフランス人が剪定や誘引の流行の先導をはたしていて、トピアリーのような芸術の形をとっていきました。ある種の剪定の方法は果樹を芸術的な形にするためだけに行われました。ゴブレットやワイングラス、唐草模様やテーブルトップなど、どれもよく果実を実らせましたが、いずれの目的も目を楽しませるためだったのです。

 たぶんもっとも重要な進歩は、私たちの視点からみると、壁への木の誘引でしょう。石やレンガの壁は巨大な蓄熱装置で、太陽の熱を吸収して寒さに弱い花の霜の被害を防いだり、果物の成熟も促進することを、私はずっと前から知っていました。扇型や垣根型の誘引法が発展し、枝をたくさん伸ばして反射する熱をできるだけ吸収できるようにし、しかも魅力的な形にしたのです。実際、石炭と労働力がとても安くて豊富だったビクトリア女王時代では、少数の裕福な地主たちは桃やネクタリン、アプリコットなどを育てるためにはどんなことでもしかねなかったのです。彼らは菜園のまわりに二重の塀を作り、たくさんのボイラーから熱を引き込む水道管や熱気送管を敷設して、寒さに弱い果樹を霜の害から守ろうとしました。これは現代ではとても勧められない方法です。

 このような広大な庭園ではスペースには事欠かないので、小さな庭に適するような果樹の育て方についても彼らが発展させたとは考えられません。

 今日ではレンガや石の塀を庭のまわりに作れる余裕のあるひとは少ないでしょうが、果樹を育てるのに家の壁を利用することは私たちにもできます。扇型や垣根型の栽培はそれほどスペースを必要としないでいろんな種類の果樹を育てる完璧な方法でもあるのです。

 ここでもまた、古くさい方法が現代の問題への完璧な解答であることが明らかになりました。ただ、その理由は異なるのですが。

 すべての種類の奇妙なあるいは素晴らしい形に誘引された木々の流行から明らかになることは、たいていの果樹はほぼ思い通りの形に成長させることが可能だということです。だからこそ、ガーデナーは生きた彫刻をつくろうとする自分の想像力を発揮できる大きな機会を持っているのです。今ではバーンスデイルにある私の庭は、ロリポップ・ツリー(ペロペロキャンディー型の木)と呼んでいる一対の木が自慢です。ロリポップとは言ってもそれは果実の形ではなく、木の形からそう呼んでいるのです。

 剪定や誘引の方法が果樹の丈夫さや収穫量を改善しようというはっきりした目的をもって発展したのは比較的最近のことです。ここでもまた、そのインスピレーションの多くはフランスからきましたた。

 1890年頃にワグノンビル農業大学の主任ガーデナーだったルイス・ロレットという人が梨の木の効率を高めるために夏の剪定方法を開発しました。これが現在とても人気のあるコードン・システムの起源であり、また誘引された木々の剪定法の基礎でもあります。

 主導権がイギリス海峡を渡ってケント州のイースト・モーリングに移ったのは20世紀に入ってからでした。この地に果樹栽培農園のために果樹栽培の研究をする研究所がつくられたのです。それまでは大半の商品栽培の果樹園は多かれ少なかれアマチュアの知恵で運営されていました。

 彼らは最初は大きな個人の庭園での方法を採用して、それを商品栽培へ応用していたと思われます。これは剪定や誘引の新しい方法へ向かうとともに、果樹の大きさに影響を与える接木用の特殊な台木を開発することにもつながりました。いまや車輪は完全な円となり、われわれアマチュアが商品栽培のプロの方法を採用して、私たちの庭に合わせて使えるのです。多くはオーダーメイドのようです。