第1章 序説: 整形式庭園


第1章 序説 Introduction 


ఔ 整形式庭園 FORMAL GARDENS ఔ 


 病害虫の管理に自然の力を最大限に利用し、しかも菜園を美しいものにする最もよい方法は、コテージ・ガーデンの原理に従って育てることです。現代のガーデナーは広大な土地はもっていませんから、なんでも一緒に同じ花壇で栽培する方法はとても適しています。庭のデザイン、特に色の取り合わせを完全に偶然にまかせなさいとは私も言いません。花、野菜、そして果樹の組み合わせで、巧みな視覚的効果を作り出す機会はたくさんあります。しかし、どんなに注意深く計画しても、最終的にはインフォーマルなものになります。

 しかし、時には厳密にフォーマルなもの(整形式庭園)にしたい場合もあるでしょう。街中の小さな四角形の庭ではインフォーマルでは乱雑な感じになりそうなときとか、広い土地があってテンポを変えるためのスペースがあるときなどです。あるいは、あなたはきちんとしたフォーマルな庭が好みということもありましょう。そういうときでも、少しよく考えて、野菜や果物を有機栽培で魅力的に育てる同じ基本原則を用いることはできます。そして、過去を振り返ることはインスピレーションを得るために役に立つことでしょう。イギリスには復元されたフォーマル・ガーデンがたくさんあり、それらをみればインフォーマルなデザインでランダムに植栽する現代のガーデニングの手法が実はかなり現代的な現象であることに気づくといった驚きに出会えるかもしれません。

 ビクトリア時代より以前に立ち返れば、フォーマル・ガーデンの例をたくさん見ることができます。エリザベス1世時代には幾何学への脅迫観念があり、地主たちの庭園は規定どおりに直角定規とコンパスを使ってデザインされていたようです。農民たちのコテージ・ガーデンも何世紀かたつと同じようなものだっただろうと思いますが、絵にはほとんど残されていません。


 中世の庭園でどのように長方形の区画に野菜を栽培していたかはすでに述べました。これは純粋に実用性からそのように始まったのは疑いもありませんが、年月をかけて次第にとても手の込んだものに変化していき、区画は幾何学的に高度な装飾的なパターンで配置されるようになりました。

 菜園の縁どり(ボーダー)はほとんどが野菜やハーブ類の栽培がされていましたが、視覚的な効果をねらって花も少し植えられていました。屋敷に飾る切り花にしたり、当時のファッショナブルな花束にしたりもしたのでしょう。ひょっとしたら、当時のガーデナーも花が菜園の害虫をひきつける力に気づいていたのかもしれません。彼らはミツバチの重要さは確かに知っていました。しかし気づいていたかどうかに関わらず、花は害虫対策に役立っていましたし、それと同時に精神を高揚させるものでした。私は踏襲する理由としてこれ以上のことは思いつきません。ひとつには、今日私たちは花を植えようと思えば当時より遙かにたくさんの選択肢があり、野菜についてもそうです。ですからエリザベス1世時代のデザインをまねるだけでなく、エリザベス2世の現代ではもっとそれを発展させるチャンスがあるのです。

 花壇のまわりを板で囲うことで現代の深い花壇をはるかに清潔で整然としたものにしてくれるのは確かです。そして花壇の間に砂利を敷くことで、よそ行きの服で昼食のレタスをとりに走って行って、少しも泥で汚れずにすむようにもなります。

 実に偶然ですが、もうひとつ小さいけれど重要な利点を見つけました。私の庭で花壇の囲いを作っていたときに、エリザベス1世時代のガーデナーになったつもりで考えてみました。あの時代から20世紀初頭まで、職人は今日よりもずっと完璧を求めていました。資金的な制限はわれわれと違ってなかったので、美に対する態度も異なっていました。職人や芸術家はその技術に対して同僚から尊敬を得ており、あまり役に立ちそうもないものにも多大な苦労をいとわなかったのです。それは、中世の建物の排水パイプとして手の込んだ彫刻をほどこされたガーゴイルと現代のグレーのプラスチック製のものと比較すれば一目瞭然です。

 ですから、エリザベス1世時代のガーデナーは屋根のとっぺんや標柱の上を飾っていたのと同じように、野菜栽培の区画の角もフィニアルの飾りをつけて仕上げていたに違いないと確信するのです。

 扱っている業者を探すには2,3か所に電話をかけて尋ねる必要があるでしょうが、一旦取り付ければとても見栄えがよくなります。とてもエリザベス1世時代風です。その後、ホースで水遣りをして気づいたのですが、通路の角ではホースがフィニアルのところで曲がるので、区画のなかの植物をなぎ倒さないようにする完璧な方法でもあるのです。ホースはフィニアルの球状の部分の下で止まり、そこでうまく滑って回るのです。ホースはエリザベス1世時代にはもちろんなかったのですが、もしあったとしたらガーデナーたちは私のフィニアルを気に入ったに違いありません。

 エリザベス1世時代の流行の中で最もフォーマルなのは、たぶんノット・ガーデンでしょう。低い垣根をとても複雑な配置で植栽し、細かい形を表現するように剪定したのもです。もともとノット(結び目を意味する言葉)がその基本的な形だったのです。つまり、たいていはボックス(西洋ツゲ)やサントリナ、あるいはラベンダーの低い生垣を刈り込んで、紐を編んだような立体的な形をつくるのです。

 トーマス・ヒルの著書「ガーデナーの迷路」は1577年に出版された最初の英語で書かれた園芸全般に関する本ですが、その中に彼はノット・ガーデンのデザインを2つほど載せていますが、いずれももし楽天的でないととてもできないようなものです。ペルシャ絨毯の柄にも匹敵するような細かいパターンで、きっとそれから思いついたものなのだと思います。少なくとも1エーカーぐらいの広さにつくるのでなければ、そういう細かいパターンは避けるべきです。そして、もしそのような大きなプロジェクトを実行するには大変なお金を必要とします。というのも、小さな生垣は密に植えていく必要があり、安くないからです。ただ、安く作る方法もないわけではありません。詳しくは3章で述べる予定です。



 その後、生垣は花やハーブ、野菜などを植えた区画の縁どりとして使用されるようになりました。フランス人はそれを'jardins potagers'と呼び、その流行はすぐにイギリスにも広まりました。デザインは依然として複雑で、整形式庭園の極みでした。この庭園はもちろん上から見下ろすことを想定しており、少し高い位置に作られたテラスの下や建物のバルコニーや寝室の窓から見下ろせる所につくられました。

 最も有名で最も壮大な規模で熱意をもってつくられた整形式菜園はフランスのヴィランドリー城でしょう。ガーデナーの教育にもここの見学は役立つでしょうし、あなたにも見学をおすすめします。しかし、とても壮大な規模の庭園であるため、現代の裏庭に応用しようとすれば、相当に想像を広げる必要があるでしょう。それでも見学をすすめます。それは、このタイプのガーデニングに関する世界で最もすばらしい実例であるからです。小さな造形、例えば装飾的なトレリスや東屋など、私の想像をかきたてたものも見られます。家に帰って作り始めるのが待ちきれませんでした。イギリスにももっと規模の小さな「ポタジェ庭園」はもちろんありますし、参考にしやすいので訪問する価値は十分あります。

 近年はハーブもよく一緒に植えられるようになり、とても効果的に見えます。もしあなたの家の庭が広いなら、コテージガーデン風に野菜を植える一方で、ハーブを植えたノット・ガーデンもつくってみてはどうでしょう。その際は、生垣に覆いかぶさるような種類のハーブは使用しないようにしないと、せっかくの生垣の効果がなくなります。セージ、タイム、マジョラムなどがよいでしょう。ラベージやアンゼリカはよくありません。

 野菜も小さなノット・ガーデンにはぴったりですが、やはりタマネギ、ニンジン、ほうれん草など小さな種類の野菜を選んで植えましょう。害虫対策のために間に植える花のスペースも忘れないようにしてください。甘い香りのするエリザベス時代のノット・ガーデンに、ひどい臭いのする現代の殺虫剤をスプレーであびせるようなことを考えただけで、トーマス・ヒルは墓の中できりきり舞いすることでしょう。